カネタタキとメトロノーム

秋の夜長、10月に入るとしばらく忘れていた夜の長さを感じるようになります。

にぎやかなテレビを消し、部屋が静まった夜11時ころ、玄関の方からチッチッチッチ…またはピッピッピ…という連続したそれもかなり耳に当たるような鋭い音が鳴り出すのです。これはなんだろう??
外の虫の鳴き声かしら?でもすぐそこで鳴いているようにも聞こえます。まさか家の中ではないでしょ!
そう思ってその日は寝ました。
ところが次の日も次の日も毎夜11時過ぎるとこの音が聞こえるのです。

虫かな?とは思いつつ何か不気味な気配を感じずにはいられません。というのも、ちょうど村上春樹の「騎士団長殺し」という小説を読んでいて、その中では、夜中の2時頃になると鈴の音が断続的に聞こえてくるのです。そしてその正体をあばくことによってどんどんと不思議な世界に引き込まれていくというものなのです。
まさか「騎士団長殺し」のようなことが我が家にも?と一瞬寒くなりました・・・(これは正体をあばくべきではない)

2、3日するとこんどは和室の方向から、またその数日後はいよいよリビングからやはり夜静まった11時過ぎになると聞こえ出します。これはどうやら家の中で移動して鳴いているのは確実のようです。

連続して10〜15回鳴ってしばらく間を置き、また同じことが繰り返されるのです。思わず聞き入ってしまいます。

やっぱり正体を知りたくてインターネット検索で「部屋の中で鳴く虫」と入れてみました。すると出てきました。正体はカネタタキという虫でした。家の中に入ってきて鳴く虫でコオロギのような姿らしいです。投稿している文を読んで、そうそうその通り、と納得。これで不気味な世界から解放されました。

正体が分かってからも夜11時を過ぎると鳴き出します。
正確に同じ間隔で鳴くのでまさにメトロノームのようで、「120より少し遅いくらい」かなと自分の中でテンポを確認。

ずっとはるか昔、音大の入試にも、大学に入ってからもハノンと音階の試験が毎週のようにあって、毎日毎日指定された♩=120 (1分間に120打つ速さ、すなわち1秒に2回)で弾き続けていたのです。
正直うんざりする記憶と共に体の中にこのテンポ感が残っているのでしょう。なのでテンポを決めたりするとき私の中で基本が♩=120になっているのだと思います。

2、3週間してついにカネタタキの声は聞こえなくなりました。お目にかかることはありませんでしたが、きっとどこか部屋のすみっこで息絶えたのでしょう。

やはり秋の夜は長いようで色々考えが巡りました。
カネタタキは消え、冬が近づいてきたようです。

2019年11月14日