和声はスパイスの役割も・・・作曲・和声の部屋から

一般的に半終止は「協和状態の属和音を持って充てる」というのが通説です。
しかしながらベートーヴェンは既に属7という、本来、不協和音である属7の和音にて半終止を形成していくこともあります。
「第三交響曲」の終楽章では、序章の最後、変奏曲の主題に入る直前の和音は協和音としてのVではなく、属7でフェルマータがついているという現象が見られますね。

また本来全終止として、Iの和音で終わるべき所を半終止の状況で曲を終結させてしまい、次の楽章への予備とすることがあります。たとえばブラームスのピアノ五重奏曲f-mollの第三楽章の「半終止状態による曲の終結」という現象も見られるようになります。

19世紀以後ロマン派に至っては必ずしも半終止は古典和声理論どおりではなく、なんとS系諸和音をもって、半終止を形成し、それがあたかも「V系諸和音和音の代用」で半終止を形成している例も見られるようになります。

例えばドボルザークのスラブ舞曲第10番E-mollなどの第四小節目は半終止の様相を示しますが、これはそS系和音、IV系の和音で半終止を形成しているのです。
あのスラブ舞曲第10番に見られる独特な感傷性は、こういう和声の仕掛けによって生まれます。ここの小節にD系和音をつけたらとても平凡なものになるわけですね。またこの作品の低音の進行は、ブラームスの第四番の交響曲終楽章、パッサカリアの最初のtuttiの部分のバス進行に類似していますね。

このように「和声」というのは通説や常識の範囲内では収まりきれない音楽形成への多大なスパイスの役割を演じます。また多くの音楽との和声進行の共通性も自然に生まれてくるのです。こうしたなかで「和声法の不思議」ということを皆さんも体験できると思います。音楽を構成する重要な理論である「和声法」に大いに関心を持って音楽や演奏に接していただきたいと思います。(八杉忠利 記)

2018年12月22日